大衆演劇劇団史大衆演劇

劇団史

第二十三回『富美男とハンバーグ』

2015.06.22 公開

天才子役と騒がれた富美男を一座としては手放す訳にはいかない。 そこで武生が「ともかく一度遊びにこい、なんでも好きなものを食べさせてやるから。」とまだ前橋にいた富美男に電話をした。

中学卒業を控えた富美男は、実は役者にはならずプロ野球選手を目指すつもりでいた。
しかし、天才子役と騒がれた富美男を一座としては手放す訳にはいかない。
そこで武生が「ともかく一度遊びにこい、なんでも好きなものを食べさせてやるから。」とまだ前橋にいた富美男に電話をした。
富美男は武生に呼び出され上野へ。
着いて早々兄の顔を見るなり
「腹が空いた、ハンバーグが食べたい。」
と、いい駅近くのレストランへ連れて行かれた。

そこで運ばれてきたハンバーグを見て富美男は驚いた。いままで見てきたのとは違ってハンバーグの上に目玉焼きがのっていた。ほかにも人参、さやえんどう、ほうれんそうが彩りを添えてとてもきれいな色合いであった。
福島で貧しい生活が続いた為、富美男は食べ物に対して人一倍思い入れが強くなっていた。
一座が前橋に拠点を置いていた頃、高崎のレストランで自分がカレーライスを食べているときに隣の席に運ばれてきた“大きな肉団子”それがハンバーグステーキとの出会いであった。それからというものいつかあの“大きな肉団子”を食べてみたいと思い続けていたのである。
今、富美男が目の当たりにしたそれは初めて見たハンバーグよりも贅沢でとても綺麗な不思議な食べ物に見えた。
食事が済むと武生は小遣いだと一万円を渡した。
世の中は公務員の初任給が二万円の時代、役者は売れれば随分儲かるものらしいと富美男は思った。
武生の思惑通りであった。

このエントリーをはてなブックマークに追加