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劇団史

第十二回『東京の芝居』

2013.10.21 公開

お客はいい芝居を観に来ているのではない、楽しみに来ているのだ。

もとより研究熱心であった武生である。大当たりを取っている舞台を見て自分の芝居の芯にあるものと、客の求めるものを嗅ぎ分けていた。
「芝居は下手、踊りも下手それにも拘らず女形の踊りの舞台には、タンスはあがる、米俵はあがる、酒はあがる、ご祝儀はじゃんじゃん投げられる。芝居も役者もうちが勝っている。負けているのは客が入らないことだけ。お客はいい芝居を観に来ているのではない、楽しみに来ているのだ。うちの芝居は心に響く感動的なストーリーで幕が終わっても涙が止まらないと言ったいい芝居だ。向こうのは芝居になっていないが、笑いがあり浮き浮きするようなムードがある。」

すぐに演目を笑い中心の楽しい芝居に変えた、武生も女形に扮し母の振り付けで流行歌に合わせて踊ってみた。
女形は好評で贈り物もあがったが、急添えの芝居の方はうまくいかなかった。武生が経験した初の東京公演は満足のいく結果が出せず、一座は本拠地の前橋へ戻っていった。

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