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劇団史

第八回『富美男、一座を離れる』

2013.03.04 公開

富美男は標準語を話し、蝶ネクタイに半ズボンというお坊ちゃま風スタイル、だが周りは垢抜けない格好の子供ばかり。

昭和三十二年。富美男も他の兄妹と同じく、義務教育のため福島の祖母の家に預けられることとなる。
富美男は、祖母の青森弁に福島弁が混ざったしゃべり方に馴染めず、怖いお婆さんと思っていたようだ。
福島市舟場町にあった祖母の家は“舟場御殿”と呼ばれるほどの豪邸で、当時ではまだ珍しかった冷蔵庫まであった。近所の床屋、雑貨屋、駄菓子屋は全部ツケがきいた。
年に数度、清と龍千代が訪れるときには座員を総動員して近所のドブさらいをして、そこに鯉を流したりしていた。普段、預けている子供達が世話になっているそのお礼であった。

富美男が入学したのは福島第二小学校、しかし学校に通うのがとても嫌で仕方なかった。
富美男は標準語を話し、蝶ネクタイに半ズボンというお坊ちゃま風スタイル、だが周りは垢抜けない格好の子供ばかり。
おまけに小学校一、二年で習うような読み書きは劇団の楽屋にいるうちに覚えていたし、足し算や引き算くらいであれば自分でお金を持って買い物に行っていたので簡単に解くことができた。
同級生のやっていることが馬鹿馬鹿しく思えて友達も作らなかったので、学校へ行ってもやることがないのである。
だが、なに不自由なく暮らせていたのも小学校三年までであった。周りを少し見下してしまっていた富美男であったが、状況が一変し悲惨な境遇に陥ってしまう。

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