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劇団史

第二十五回『三枚目のジレンマ』

2015.12.14 公開

富美男が舞台に出るだけで客は笑い始める、何か面白いことをやるのを期待されているのだ。

三枚目として人気が出てきた富美男のキャラクターを生かすべく、武生は次々とアイデアを出してきた。
テレビで「スパイ大作戦」が流行ると直ぐにその一場面を取り入れた。有名な“尚、この密書は自動的に消滅する”というあの下りである。隠密に扮した富美男が密書を読むとその途端燃え上がりビックリ仰天・・・。
舞台に出れば必ず受けるから、毎回面白くてたまらない。そのうちに欲が出てきて二枚目もやりたくなる。
だが、富美男が舞台に出るだけで客は笑い始める、何か面白いことをやるのを期待されているのだ。

富美男が普通に二枚目をやっても客の方は面白くない。
「真面目にやりやがって、もっと面白いことをしろ!」
と罵声を浴びてしまう。
それ以来、富美男は三枚目に徹した。男の役だけではなく、ときには性悪婆さん、不細工な田舎娘、果ては猿や狸など動物の役までも器用にこなしていく。
無我夢中に数年が過ぎたとき、富美男は役者として最初の壁に突き当たる。こんな馬鹿馬鹿しいことをやっていてこれからどうなるのか、このままでいいのかと思い悩むようになったのだ。

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