入団したての新米がやらなければならないことはたくさんある。
まず、着物のたたみ方、照明係、大道具、このような経験を積む中で
演劇というシステムを学び、舞台を見ているうちに芝居が自然に頭に入ってくる。
その他にも、先輩に食事を運ぶなどの雑用も多い。
ことに座長付きになれば、公演のときには朝一番で新聞を買って
座長の部屋へ届けるという仕事もある。
世の中には、不合理なことが山ほどある。最初からいちいち腹を立てたり、
バカバカしいと思ったら、どんな世界でも生きてはいけない。
本当に不合理で、やめるべきこともあるだろう。
しかし、もし仮に、それが永年の伝統のなかで培われてきたものならば、
一度は従ってみたらいい。毎朝早起きして新聞を買いに行った
若者達が座長や副座長になったら、そのときに、
この習慣をどうすべきかを自分たちで決めればいい。
将来、きっと彼らは、新聞を買いに行った日々があるから今の自分があると考えるだろう。
僕自身がそうだったから、これは自信を持って言える。