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劇団史

第二十回『天才子役、登場』

2015.01.05 公開

まだ開演前なのに客席から大きな笑い声が聞こえてきた。BGMで流れる「伊那の勘太郎」に合わせて、おしめをしたままの富美男が花道で踊っているのだ。

富美男の初舞台は何と1歳五ヶ月のとき、とにかく袖から舞台を見るのが好きな子供だった。ただ見ているだけではなく、踊りや科白をいつの間にか覚え器用に真似てみせるのである。
一座が郡山の大正座で公演中のこと。まだ開演前なのに客席から大きな笑い声が聞こえてきた。BGMで流れる「伊那の勘太郎」に合わせて、おしめをしたままの富美男が花道で踊っているのだ。

母親が面白がって、翌日から三度笠を持った股旅者の姿をさせ舞台に上げた。よちよち歩きの勘太郎が、切って捨てた悪党の背中に足をのせて見得を切り、「江戸を離れて・・・」の名台詞をやってのけるのである。場内は沸きに沸いた。
地元の新聞も「天才少年現れる」と大きく取り上げた。いける!と直感した父親は即座に出し物を富美男中心に切り替えた。代表的な芝居は「母をたずねて」、富美男と父親が角兵衛獅子の芸を見せながら、生き別れた母親を探して旅から旅へ。ようやく探し当てたものの、母親は大店の奥様におさまっていて親子と名乗り合うことが出来ない。富美男が「ちゃーん!」とか「おっかぁ!」と言うだけでお客は滂沱の涙であった。

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