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劇団史

第十九回『子役、富美男』

2014.11.10 公開

子役がとっさに応用をきかせられる訳もなく、自分の芝居ができなくなって富美男が舞台上で泣いてしまう。

武生に言わせると、子役時代の富美男は鼻持ちならない子供であった。
物心つくかつかないかの頃から芝居の英才教育を受けていたようなものである。当然、子役として芝居が非常にうまかったのだが、下手な大人の役者を「こんな奴とはやりたくない」と馬鹿にしてしまうこともあった。
子役を経験した役者にしかわからないことではあるが、子役は決められたことしか舞台で喋られない。子供の理解力では教えられたことは絶対に忘れないが、たまに相手の役者が台詞の言い回しを少しでも変えてしまうとそれに続く台詞が出てこなくなってしまう、きちっと決められた台詞でないと反応ができないのである。

子役がとっさに応用をきかせられる訳もなく、自分の芝居ができなくなって富美男が舞台上で泣いてしまう。子役の富美男が劇団の売りであった頃は泣いて芝居のできない富美男が叱られることはなく、「売り物」をダメにしたと武生も含めた相手役が怒られた。
長男であった武生はもらった給料を貯めて富美男におもちゃを買ってあげたりしたのだが、富美男は既に舞台でおひねりをもらったり、子役ということでまわりの大人からちやほやされたりしていたので大好きなおもちゃのピストルを自分で買うことができた、武生がプレゼントしてくれるものよりずっと高価なものを手にしていたので、兄からプレゼントされたおもちゃを投げてしまうこともあった。
子供の正直さが、武生には残酷に映っていたのかもしれない。この頃のことは武生は一生忘れないと言っていたそうである。

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