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劇団史

第九回『大衆演劇に陰り』

2013.04.29 公開

髪は伸び放題で服はボロボロ、靴が無いので裸足に下駄、その哀れな姿の弟を抱き寄せて泣いた。

昭和三十年代は映画の全盛時代で、三十五年には観客動員数が戦後最高を記録。古くからの劇場が次々と映画館に商売替えし、大衆演劇の隆盛に陰りが見え始める。そこにテレビの急激な普及が追い打ちをかけた。
梅沢劇団の興行もそのころ大変な状態となり、富美男の住む福島の実家への送金もぎりぎりの状態になった、富美男も含めて五人の兄妹、祖母の生活を支えていくにも苦労するようになる。富美男が三年生の頃には教科書も買えず、給食費も払えなくなっていた。
劇団では、一座の人気を取り戻す為に父清が主役の座を兄武生に譲る。二十歳を越したばかりの武生は、父の期待に熱の入った舞台で応えて傾きかけた一座を支えた。

昭和三十六年の春、花形役者となった武生は福島を公演の為に訪れる。自分の晴れ姿を見てもらおうと、お土産をかかえて祖母の家にやってきた武生は富美男の姿を見るなり絶句した。
髪は伸び放題で服はボロボロ、靴が無いので裸足に下駄、その哀れな姿の弟を抱き寄せて泣いた。役者として追い抜いてやると思っていた富美男のその有様を見て武生は福島にこのまま富美男を置くことは出来ないと思い、自分が面倒を見るからと両親に頼んだ。

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